スマホ、ゲームを手放せないのは依存症?アルコール、市販薬、セックスでも起きるアディクションの基礎知識

心のケア

アディクションとは?

臨床心理士
臨床心理士

専門家は依存のことをアディクションということがあります。ゲームやネットへのアディクションは最近増えていますし、ギャンブルへのアディクションは自殺との関連も深いです。本人だけでなく、周りの人も苦しい問題なので、ぜひ知っておきましょう。

アディクションには以下のような特徴があります。

アディクションの特徴

      ※“それ”という言葉は飲酒やギャンブルに置き換えるとイメージしやすいです
1.欲求
それを行いたいという強い欲求や衝動がある
2.社会障害
それを行うために、社会・対人関係の問題が生じている
3.自分でコントロールするのが困難
最初に思っていたよりも長い時間、または多くの量を使ってしまったり、それを行うために大事な活動を犠牲にしてしまう
4.耐性
繰り返し行うことによって効果が得られにくくなり、使用量や時間が増えてしまう
5.離脱症状
行うのをやめると離脱症状(例えば抑うつや不安など)が出る

臨床心理士
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ゲームのやりすぎで学校に行けなくなったり、アルコールの飲みすぎで仕事をクビになっているいなら、社会・対人関係の問題」が生じているのは間違いないですね。

忘れてはならないのは、アディクションは

短期的には快楽
長期的には苦痛
になるということです。

そう、アディクションは目先の欲にとらわれた結果、詐欺にひっかってしまったようなものです。しばらくの間、満たされていない欲求が叶っても、長い目で見ると害になっているのです。

周囲の人から見ると、まるで何かにマインド・コントロールされているように見えることもあります。本人は否認していても、もはや自分の制御がきかなくなっているのです。

二種類のアディクション

アディクション(依存症)は大きく2つに分けられます。

2つのアディクション

1. 物質依存症/物質使用障害
物質を体内に取り込むことで生じるアディクション。アルコール、タバコ、大麻、カフェイン、その他の薬物など直接、脳を刺激するものに対して生じます。

2.行動嗜癖(こうどうしへき/behavioral addiction)
物質を体内に取り込んでいないにもかかわらず生じるアディクション。ギャンブル、インターネット、ゲーム、セックス、ショッピングなど行動によって快感を得、物質使用障害と類似した問題が生じます。

1980〜90年代には、アディクションはヘロインといった物質に生じるだけでく、ギャンブルなどの行動でも同じように生じるという考えが受け入れられるようになりました。医師が診断に使うDSMでは2013年に行動嗜癖が物質使用障害と正式に同じカテゴリーに並ぶようになりました。

それではこの2種類のアディクションをもう少しみていきましょう。

物質依存症/物質使用障害

アルコール依存症

まずアルコール依存症ですが、おすすめの実体験マンガがあるので、良かったら読んでみて下さい。吾妻ひでお先生の「失踪日記2」です。

「失踪日記」第2巻はタイトルでもわかりますが、「アル中病棟」を舞台に描かれています。精神科の治療ってこういう感じなんだ〜、アル中になるとこんな感じなんだ〜というのが理解しやすいと思います。
テーマは重く聞こえるかもしれませんが、そこは吾妻先生の力で軽やかに、面白く読ませてくれます。

(吾妻先生は違うかもしれませんが、)アルコール依存症の人は、一般的にお酒で問題が起きてもそれを認めなかったり、やめようと思えばやめられるなどと言って、問題を否認しがちです。しかしアルコール依存の人は日本に109万人ほどいると推定される身近な病気なのです。

アルコール依存症の人の平均寿命は50代前半とされますし、仕事・家族・友人なども多く、心理的・身体的コストは高いです。治療法はマンガに出てくるようにアルコール・アナニマス(AA)などの自助グループや、薬物療法、心理療法があります。

それから他にもアルコール依存症に関する実話マンガといえば、西原理恵子先生の「毎日かあさん」があります。夫であった鴨ちゃんが依存症で大変だったことがちょこちょこ描かれていますが、特に(感動して)泣けてオススメなのは4巻です。

ただ「毎日かあさん」では、ガッツリとアルコール依存症を扱っているとまでは言えません。もっとちゃんと読みたいという方は、同じく西原先生の本で正面切ってアルコール依存症を取り上げた本があります。

漫画ではないので軽〜く楽しく読むという感じはないですが、こちらの方がアルコール依存症について知ることができます。 

薬物依存

軽い気持ちで市販薬に手を出し、しまいには薬物依存になってしまう少年少女は少なくありません。

最初は効果があった薬でも、耐性ができて効果が感じられにくくなるため、だんだん量を増やしたり、どんどん強い薬に手を出すことになり、結果的に依存の沼にハマってしまうのです。

なお、脳の機能を変化させることができる向精神薬には興奮剤、鎮静剤、幻覚剤、麻酔剤、その混合的な作用を持つ薬剤などがあります(この分類は絶対的なものではなく、一つの薬物がいくつもの分類にまたがることがあるので、目安として考えてください)。

こうした薬剤のうち、脳の報酬回路を強く活性化してドーパミンを増やす向精神薬(コカイン、ヘロイン、アンフェタミンなど)は依存症のリスクが大きいです。

臨床心理士
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報酬回路が活性されると、辛い気持ちが軽減され、気持ちよく元気になれます。

また報酬回路をそれほど活性化しない向精神薬(アルコール、大麻など)は依存症のリスクが低めです。

臨床心理士
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ただアルコールは広く飲まれているだけに、アディクションになっている人は多く、注意が必要です。一方、大麻は日本では厳しく罰せられていますが、アルコールの規制と比べるとアンバランスすぎる厳しさですね。

さらに報酬回路を活性化しない薬物(LSD、アヤワスカ、メスカリン、ベンゾジアゼピン、SSRI)は依存症のリスクは(ほとんど)ありません。

行動嗜癖(こうどうしへき)

ギャンブル依存

日本人は予想以上にギャンブル依存が多いです。推定では大人の男性の9.6%、女性の1.6%がギャンブル依存とされています(文献4)。そして日本のギャンブル依存の8割がパチンコやスロットによるものとされています。ですので、もっと政府はパチンコの問題に向き合い、対策を強化すべでしょう。ギャンブル依存症の人は多額の借金を抱えやすく、40%ほどの人に自殺企図があるとされ、深刻な問題です(文献5)。経済的な負担が大きいので家族など周りの人にとっても、苦しい問題です。

セックス依存

日本ではなかなか認められにくいものに、セックス依存があります。ここ20年ほどに発展した概念で、問題になるにも関わらずセックスを求め、性衝動を満たそうとします。他の依存症もそうですが、どこからが病気かというのは判断が難しいです。

自分がそうかな?と思う人は、一番上にあるアディクションの特徴が当てはまっているか考えてみてくださいね。 有名人ではタイガー・ウッズがセックス依存症で治療を受けています。また昔、流行った「Xファイル」のモルダー捜査官を演じた俳優、デイヴィッド・ドゥカヴニーもセックス依存症ということで名前が知られています。

インターネット依存、ゲーム障害

これらは現代病ですし、子どもに生じやすい重大な問題であることから、別のブログで取り上げたいと思います。

行動嗜癖の治療

こういった行動嗜癖の治療も、物質依存症と多くが共通しています。自助グループや回復支援施設では、行動嗜癖を対象とするところが増えてきていますし(文献2)、薬物療法も有効とされます。もちろん心理面からのケアも重要です。

臨床心理士
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まずは、なぜ依存が生じたのかを理解することが大事です。下の「アディクションの治療と構造」を読んでくださいね。対応方法も書いてあります。

アディクションの生物学的視点

遺伝
臨床心理士
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なんと依存症リスク要因の40〜60%は遺伝的なものとされています!この数値は他の病気と比べても、かなり高いと言えるでしょう。

特に病的なギャンブルに限っていうと、男性の病的ギャンブルは35〜55%が遺伝要因で説明がつくそうです。ただ性差があり、女性の遺伝要因は明確ではありません。これは女性のギャンブル依存者が少なくて研究結果が出にくいことも影響しているので、将来の研究に期待したいところです。

現在、依存症に関連する遺伝子は一つではなく、多数が関わっていると考えられています。少し専門的になりますが、ドーパミン受容体の一種でD2と呼ばれる遺伝子発現にA1という遺伝子を持っていると、D2ドーパミン受容体の発現が少なくなり、依存症になる可能性が高いとされます。(文献3)

ADHDで素行に問題があったり、双極性障害がある青年は物質使用障害のリスクがかなり高いとされています。

脳のシステム(報酬回路)

脳の一部は持ち主に快感を与える機能を持っています。

甘いものやカロリーの高いものを食べたり、セックスをしたら気持ちよく感じます。気持ちいい時、脳はあなたに神経伝達物質を通して、報酬を与えているのです。そうやって脳が快感を与えてきたので、その脳の持ち主は生き延び、子孫を残す可能性を高めることができました。つまり脳の報酬は種の保存に関係しているのです。

臨床心理士
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ここから、少し話が小難しくなるので、興味のない方は緑色の部分を飛ばしていただいて大丈夫です。

少し専門的な話になるのですが、この報酬の仕組みに関わってくるのが、脳の中にある腹側被蓋野と言われる部分です。腹側被蓋野のニューロンが活動することで、背側線条体や扁桃体、海馬といった様々な部分で、神経伝達物質であるドーパミンを放出し、脳の持ち主を気持ちよ〜くさせてくれます。

つまり腹側被蓋野はドーパミンの放出に関わっているわけですね。そしてこのドーパミンの放出を抑制するのに関わっているのが神経伝達物質のGABA( ギャバ)で、これは側座核という部分から放出されます(文献3

だんだん複雑になってきましたが、この即座核と腹側被蓋野はニューロンで繋がっており、こういった放出や抑制のシステムがあるため、脳のドーパミン量は適切なバランスを保っているわけです。

さて、本当はドーパミンの取り込みなども絡んで、脳はもっと複雑なのですが、結論だけ述べますと、ADHDの人はドーパミンが不足していると言われています。そのため些細な出来事では気持ちよくなれず、やる気がなかったり、あるいは逆に活発になって刺激の強いことをしてドーパミンを出そうとしたりします。

それから前述の依存に関わる遺伝子もADHDとの関連が指摘されています。ですからADHDの人は生物学的にみても、アディクションになりやすいので、双極性障害の人と同様、注意が必要というわけです。 

なお薬物等によって生じる物質使用障害と行動嗜癖では、脳の中でドーパミンを放出するというところでは同じで区別できませんが、薬物を用いた方が短時間に依存を生じさせることができます。

アディクションの社会的視点

ビジネスにおいては、客が商品に依存してくれた方が企業はお金が稼ぎやすいです。そのため、一部の企業は意図的に依存が生じやすい商品を売り出しています。

1.モノへのアディクションを生じさせるビジネス
合法ですが、アルコールやタバコがありますね。
アルコールについては、最近では“ストロング”系の飲み物が問題になっています。美味しくグビグビ飲めて、安く酔うことができますが、知らない間にアディクションになっている・・・ということがないようにしたいものです。

2.行動嗜癖(行動のアディクション)を生じさせるビジネス
日本ではパチンコにハマっている人はとても多いんじゃないでしょうか?そこら辺にいっぱいパチンコ屋がありますし、朝に長〜い行列が出来ていたりしますよね 。その行列の中には、きっとアディクションになっている人が含まれていると思います。

それから最近では、SNSやゲームといったインターネットでアディクションになっている人は多いですが、こういったビジネスには行動嗜癖が生じやすい要素が組み込まれています。

臨床心理士
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ここでパチンコ屋の経営者や、ゲームの作成者になったつもりで、客を依存させる要素を学んでみましょう。

行動嗜癖を生じさせる要素

1.ちょっと手を伸ばせば届きそうな魅力的な目標がある
2.抵抗しづらく、予測できないランダムな頻度で報われる感覚(たま〜にギャンブルに勝つ。ゲームで、たま〜にボーナスタイムがあり快感を得るなど)
3.段階的に進歩・向上していく感覚がある
4.徐々に難易度を足していくタスクがある
5.解消し難いが解消されていない緊張感がある(面白いドラマは最後に問題が生じるので、次回が気になります)
6.強い社会的な結びつきがある(みんなでまた夜にネットゲームしようぜ!俺たちは仲間だ!)
文献1  

こういうのを読むと、まんまと企業側の思惑にハマって、お金を落としちゃっているな〜と思うのではないでしょうか?相手はあなたを使ってお金をもうけているのですから、それに乗せられちゃっているというのはバカバカしいですよね。

アディクションの治療と構造

アディクションは物質依存であっても行動嗜癖であっても、感情的苦痛や自尊心の傷つきなどを緩和する効果があると考えられています(文献6)。

例えば怒りや恐れなどネガティブな感情が生じた時、それに対する感情調節がうまくかず、また問題に対処するスキルを持てていないと、アディクションになりやすいとされています。

このように心理的な脆さがある人は、依存することで、つかの間であっても安らぎを得られることを発見し、それに頼らざるを得なくなってしまうーーーそういった考え方を「自己治療仮説」と呼びます。

ですので依存症の人と話す時、その行動を一方的に批判するのではなく、その依存対象は「あなたに何をもたらしたのですか?」と聞くなど、治療的な機能を知ることで、より人間的な関わりができるようになるのです。

臨床心理士
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たとえばゲームに依存している子どもには、「どうしてこのゲームが好きなの?」「ゲームしているとき、楽しそうだね」などと声をかけて、ゲームに依存してしまう子どもの気持ちを理解するようにしてみましょう。一緒にゲームをしてみるのもアリですよ。

アディクションの反対はコネクション

「アディクションの反対はコネクション」とも言われます。つまり依存症にならないために、あるいは依存症から回復するためには”つながること”が大事ということです。

嫌なことを一人で抱えているから、何かに依存してしまいたくなる。でも、周りに自分を理解しようとしてくれる人たちがいて、その人たちとつながれたら、「今日一日は依存せずに過ごそう」と思えるかもしれません。

臨床心理士
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しかし、アディクションの人の問題に巻き込まれ、それでも支えなくてはいけない周りの人は、かなり大変です。正直、依存している人は周りから見ると、楽しみを追求している勝手な人に見えるので、周りの人とっては共感しづらく、苦しいのです。

「自己治療仮説」は専門家の中では知られており大事な概念ですが、すでに広く認められているのは「対抗過程理論」で、しっかりしたエビデンスもあります。

「対抗過程理論」とは、1970年代にリチャード・ソロモンによって提唱されたモデルです。このモデルでは、いったん快楽の体験を学習していれば、たとえ快楽が減少しても、その行動は消えにくく、むしろ苦痛にしか見えなくても依存行動をすると考えられます。“対抗”というのは“快楽”と“苦痛”の対抗する状態を指しています。

臨床心理士
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軽い気持ちで覚せい剤を使ったら、脳に快楽が記憶されてしまい、仕事や家族を失っても、やめられなくなった・・・・そんなストーリーをよく聞きますね。これこそ「対抗過程理論」で説明ができるわけです。

最後にハーバード大学医学部のホワード・シェファー博士らのアディクションのモデルをご紹介します。

このモデルでは物質依存でも行動嗜癖でも、まず神経生物学的因子が存在し、これがアディクションの罹患準備性を高めます。そこに社会的・心理的因子が加わり、何らかの依存対象に出会うことで、アディクションが生じると考えます。

臨床心理士
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つまり、もともとアディクションになりやすい人がいて、そこにストレスなど要因が加わってしまうとアディクションになってしまうというわけですね。

文献

文献1:「僕らはそれに抵抗できない」 2019年 アダム・オルター著 ダイヤモンド社
文献2:こころの科学182  病としての依存と嗜癖 成瀬暢也
文献3:「快感回路 なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか」 2014年 デイヴィッド・J・リンデン 河出書房新社
文献4:樋口進(2009)成人の飲酒実態と飲酒に関連する生活習慣に関する実態調査研究
文献5:こころの科学182  「ギャンブル依存」 蒲生裕司
文献6:「人はなぜ依存症になるのか ー自己治療としてのアディクションー」 2013年 エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ 星和書店

読みやすい本はこちら

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